ほこみちインスパイアフォーラム2024ーみち活クロストーク編

2025/03/10

「ほこみち領域∞(ムゲンダイ)」をテーマに、2025年1月21日(火)に開催された「ほこみちインスパイアフォーラム2024」。
今回の記事では、三本の「みち活クロストーク」をしっかりご紹介。「GX」、「官民連携」、「広告」をテーマとしたメインスピーカーによるプレゼンと、トークパートナーとの軽快なセッションを振り返ります!

【みち活クロストーク1】
トライアンドエラーで、新しいことにチャレンジする習慣をつけよう!

<メインスピーカー>
山崎 満広さん Green Cities, Inc./代表取締役

『ポートランド式GXライフの真相』

プレゼンの冒頭に、車が走り去る音、鳥のさえずる声、雑踏の人の声を流しながら、山崎さんは「これらを聞いてあなたはどう感じましたか」と聴衆に語りかけました。道路は都市空間の約4割を占めるというデータがあるそうです。そのため、道路という空間でどういう気持ちになるかは生活者にとって重要だと、山崎さんは言います。

「道を作ることは自分たちの将来の生活空間を作っているようなもの、だからほこみちは自分たちの未来をデザインしていることです」という宣言から、プレゼンテーションが始まりました。

道は、人と人をつなぐ場所だからこそ、キックボードをするなら少し速度を落としたり、人と目が合ったら挨拶をしたりする、というコミュニケーションが重要になってきます。山崎さんは、対話・実験・連携で歩行者空間に大変革を起こしたいと考えています。

ポートランド市の都市開発局時代や独立後に、住民とのまちづくりに関わってきた中で、「呼ばれたのに受け入れてもらえない」という状況があったそうです。それを「自分たちでまちをデザインしていいのかわからない」という戸惑いによるものではないかと推察されています。まちづくりへの心理的ハードルを下げるためには、場づくり・雰囲気づくり・言葉づかいの工夫と併せて、アプローチが大切だと言います。

多様な人の意見を一度に聞いてしまうと対立が起こることがありますが、間に中立な立場のファシリテーターを入れることで、同じ方向を向いて話ができるようになります。こういったアプローチで対話の場を作っていくことが、ほこみちの実現にも大切だと言います。

また、ユーザー目線で考える、新しい視点で考えるということも大切です。わたしたちは既存のルールや慣習の中で生きているので、道路の新たな利活用にチャレンジしても、次第に忘れてしまうからです。それでも、新しいことを試し続ける、いいことを伸ばし続けると習慣になります。習慣はルールのようなものなので、守りやすい。ですからほこみちも習慣まで持っていくことが大切だと言います。

プレゼンの後半では、ポートランド・ロイド地区でのGXの事例に触れ、元はオフィスしかなかった地区全体をリノベーションして、商業や住宅を作り、地区の緑化率を上げ、生活排水を濾過した水で街路樹に散水をしているとのこと。そのため、新興エリアに引く上水量はこれまでの10%、下水量は15~20%程度に抑えられているそうです。

こういった新しい取り組みを取り入れていこうとする道路を「リビング ストリート」(大胆な試みで新しい価値を創造するための、実験する都市空間)と、山崎さんは呼びます。ほこみちも「リビング ストリート」になれるのではないか、市民が実験して使ってみるというサイクルを回していくと良いほこみちができるのではないかと締めくくられました。

<トークパートナー>
今 佐和子さん 国土交通省 都市局 都市環境課/課長補佐
酒匂 一樹さん 国土交通省 道路局 環境安全・防災課/課長補佐

共通のビジョンを描くための対話が重要!

プレゼンに続いて、道路局の酒匂さん、都市局の今さんを交えてクロストークが行われました。

最初に今さんから、都市局が取り組んできたウォーカブルの定義の中には、多様な用途・使い方をする「ダイバーシティ」という言葉を入れているが、生活者の声をどうやって集めるのかという問いが投げかけられました。

「ポートランド都市開発局はそこに命を懸けている」と山崎さんは言います。誰を呼ぶか、どうやって呼ぶか、本当に来てもらえるかに注力してこられたそうです。特に普段声を聴けない人を呼ぶということを重要視されていました。

また、山崎さんは、人事異動などで担当者が変わってしまうものではなく、継続して伴走し続けるチームが必要とも考えています。同じファシリテーションをする、同じメッセージングを続けるためには、仕事を超えた関わりが必要になってくるのでしょう。

酒匂さんからは、道は国道・県道・市道で管理者が違うため様々な垣根があるとした上で、ほこみちは「線」の制度ではあるが、「面」でまちづくりのビジョンを描き、それぞれの管理者がその実現に向けて動いていくアプローチが大切ではないかと投げかけられました。

考え方を共有し、対話を設計していくことの重要性が見えてきました。

【みち活クロストーク2】
池袋「でも」できた!まちなかに居場所(リビング)が育つまで

<メインスピーカー>
青木 純さん 株式会社nest/共同代表

『池袋リビングループのデザイン力』

治安が悪い・汚いなどマイナスイメージがあり、さらには23区の中で一人当たりの公園面積が最も少ない、しかしながら日本一の高過密都市で人が溢れかえっているという池袋のまちで、青木さんが取り組んでこられた「池袋リビングループ」は、まち全体を公園にするという戦略を持って8年前から進められてきました。

今では、並べたベンチに人が腰かけ、アクティビティが溢れ、路上に出店した屋台からいい香りが漂っている池袋東口グリーン大通りですが、この人々の居場所(リビング)を実現するまでの経緯をご紹介くださいました。

始めた当初、テーブル・イスを置くだけでは、池袋のストリートに人は滞留しないということを痛感したそうです。これまでの活動を振り返って、実験→検証→実装をやり続けた8年前だったと、青木さんは言います。
警察や行政と交渉しながら、道路中央にあった白い光を放つさみしい照明を端に移設し、街路樹の周りにサークルベンチを置き、区に給排水管を整備してもらうことによって路上で調理できる環境を整えていくと、イベントに出店してくれた屋台の売り上げが右肩上がりで増加していきました。場所の価値が高まると、美味しいものが食べられて、演奏が聴けて、道に佇むだけでも気持ちいい場所だというように、人の期待値も高まります。

イベントの実現性を検証した後は、マーケットだけではなく日常を大事にしたいという想いから、「まちなかリビングのある日常」をテーマに、さらなる実験を重ねてこられました。
サンシャイン劇場リニューアルに伴って出た廃材等を使ってDIYで作った数種類のファニチャーでは、仕事をしたり、語らったり、スマートフォンの充電をする姿が見られ、パブリックスペースでの過ごし方のバリエーションが広がっていきました。
そうして人が集まる空間ができると、ごみが落ちたり壊される恐れが出てくるということで、次は、抑止力としてその場に人の目がある状態を作る実証実験を始められました。通勤時間帯にコーヒーを提供したり、ただ編み物をしたりシャボン玉を飛ばしたり、花を販売したりと、やりたい人のチャレンジを支える仕組みを作られました。

まちのリビングとして過ごしてもらえる日常を作るために実験→検証→実装を重ねた結果、通り過ぎるだけだったストリートに、人と人の交差点が生まれ、仲間に会いに行く目的地に育ってきたと言います。そんなリビングに愛着を持つ人たちの自治が生まれ、今では清掃や什器の営繕もみんなで行われているそうです。

<トークパートナー>
飯石 藍さん 公共R不動産メディア事業部/マネージャー、株式会社nest/取締役
留守 洋平さん 国土交通省 道路局 環境安全・防災課/道路環境調整官

丁寧に関係性を耕していく。ここでも対話がキーワードに!

プレゼンに続いて、道路局の留守さん、公共R不動産で青木さんとともに池袋のプロジェクトに携わる飯石さんを交えてクロストークが行われました。

魅力的だと思う空間に共通するのは、人の巻き込み方だと、留守さんは言います。同時に、それはとても難しい部分でもあります。

青木さんは、会話では白黒つけて合意形成をしてしまうけれど、対話の視点であれば「人の話を汲み取る」という姿勢になれると言います。例えば、池袋の事例にも出てきた警察協議では、「照明を移設することで、むしろ安全が担保される」ことを伝えないといけないわけです。相手が喜ぶことにボールを投げる意識で対話していくと、仲間が増えていきます。

加えて、飯石さんから、道路を中心として池袋のまちがどうなったらいいかを議論して、応援者が増えていったとも言われました。

では、池袋のような都心部と地方都市の違いはあるのでしょうか。

都市部は人が多いため、ニーズに合致すれば上手くいくというメリットがある一方、都市部だからこそ規制が多く、利害関係者も多いため合意形成も難しいというデメリットもあります。しかし、池袋でも、最初は「キッチンカーは歩道に入れてはいけない」というところから始まり、この小さな範囲で・この時間だけ・この安全性を担保するので、という糸口を広げていったそうです。このプロセスは地方都市でも変わらないと、青木さんは言います。

また、池袋のローカル感を生み出すために、文化圏や経済圏を意識し、「出店者の選び方に命をかけている」とは、飯石さんの言葉です。出店者選びは、自分たちの価値観を伝えることとイコールだと言います。

最後に留守さんから、福岡の中洲の屋台のように、「通いたくなる」という段階までいくとサイクルが回っていくのではないかと、締めくくられました。

【みち活クロストーク3】
スピード感と推進力に注目!DIYアーバニズムを実践し続けるゲリラ集団を徹底解剖

<メインスピーカー>
西村 亮彦さん 国士舘大学理工学部/准教授

『DIYアーバニズムで道路の景色が変わる』

西村先生の研究室は「人がつくり出す風景、人がいることで生まれる風景を第一に都市のデザインを考える」という理念のもとに、学生たちとDIYで、しかもゲリラ的に道路空間を広場に改変する「出張DIY広場」という取り組みを続けておられます。2024年はなんとその中からグッドデザイン賞を受賞するプロジェクトまで出てきました。
これまでの5年間で43のプロジェクトを実践してわかったことを、6つのカテゴリーでご紹介くださいました。

・場所を超え多様なアクティビティを生み出す装置である(ちょっとした工夫で風景は変わる!)
・工務店顔負けの設計力と技術力(空間デザインの質で行動が変わる!)
・道路の常識をくつがえす実践力(常識にとらわれないチャレンジを!)
・当局のルール・慣習を変える戦術力(既存のルールと戦術的にたたかう!)
・10分で道路が広場へ生まれ変わる現場力(トライ&エラーを積み重ねる!)
・企業コラボで道路空間にイノベーション(可変的に道路空間を再編する!)

このうち2つめのカテゴリーでは、グッドデザイン賞を受賞したパークレット「浅草雷門通りパーケード」について事例紹介くださいました。
観光に人気の浅草寺一帯では、歩行者が極度に集中して快適な歩行空間や休憩場所が不足していたため、台東区が路上駐車帯の一部をパークレットとする企画を進めていたことに対応し、「出張DIY広場」が日本を代表する観光地浅草にふさわしい魅力的な道路空間を検討しました。
隣接するアーケードや雷門と調和しながらもこれに負けないランドマークを目指し、地元職人と協働しながら、木と布の素材感あふれる都会的で高質な空間を実現させました。

仮設や暫定だからといって妥協せず、空間の質にこだわったからこそ、住民や来街者が思い思いの時間を過ごす風景が生まれたのだと思います。また、わずか1日で施工してしまう、学生たちのスピード感にも驚かされます。

最後に、道路空間の再編・利用を実現するためには、長期的なビジョンを描いて小さく素早くアクションを起こし、結果をビジョンへフィードバックさせていくという、アップグレードのプロセスが重要であると、西村先生は言います。そのため、社会実験という言葉を使わず、毎回が本番のつもりでスピード感と推進力を持って戦術的アクションを起こしているそうです。

<トークパートナー>
梶原 ちえみさん 国土交通省 道路局 企画課 評価室/課長補佐
吉次 翼さん 株式会社博報堂 テーマビジネスデザイン局/プロデューサー

地域の文脈を汲み取った本気の空間デザインに感動!

プレゼンに続いて、道路局の梶原さん、博報堂の吉次さんを交えてクロストークが行われました。

梶原さんは、道路局の企画課評価室でバスタプロジェクト(鉄道・バス・タクシーなど多様な交通モードがつながる集約型の公共交通ターミナルを官民連携で整備する事業)に携わっています。自身のプロジェクトをご紹介いただきながら、「地域の課題を解決しながら新しいものを生み出していくことが、道路の中でも求められている」とおっしゃいます。

西村先生のプレゼンはアグレッシブな事例ばかりで、ほこみちの可能性が感じられたと、梶原さん。DIYといいながらそうは思えないクオリティで、使い回しのないデザインであったので、地域の文脈を汲み取って作られているのではないかと、投げかけられました。

それに対して西村先生も、一点ものは大事だと言います。下北沢で、ビールケースでベンチを作ったのも、「ビールケースがエモくでまちに映えるのではないか」ということでした。コンテクストを読み解いてデザインしていくことは、バスタなどのハード整備でも大事なポイントになるでしょう。

吉次さんは、ちょうどお子さんを連れて「浅草雷門通りパーケード」に行ったことがあったそうです。普段は買い食いをしないのに、そこでおやつを買って食べたという実体験から、空間の質が変わると来街者の行動も変わるということを実感したと言います。
子ども用の小さな椅子もあって、子どもが「自分用」に置かれたものだと認識することで、使いたいと思うようになることにも気づきました。

西村先生の本気が学生にも伝わって、効果を生んでいると、梶原さんが締めくくりました。

いかがでしたか?まさに、ほこみちが貢献できる領域の無限∞の可能性を感じていただけたクロストークだったのではないでしょうか。もう一度聞きたい方は、YouTubeでもご覧いただくことができます!

次回の記事では、全国各地の最新事例について6組のみなさんにプレゼンいただいた「TREND & TOPIC」の内容をご紹介します!