ほこみちインスパイアフォーラム2024ーTREND & TOPIC編

2025/03/10

「ほこみち領域∞(ムゲンダイ)」をテーマに、2025年1月21日(火)に開催された「ほこみちインスパイアフォーラム2024」。
今回の記事では、ユニークな道路空間活用アイデアを実践する全国各地の事例紹介「TREND & TOPIC」のコーナーをご紹介します!

大阪みち活ラプソディ ―都市プロモーション戦略から御堂筋への投資を促す

<登壇者>
中上 貴裕さん 大阪市建設局企画部企画課道路空間再編担当/課長代理

トップバッターは大阪市職員の中上さん。将来のフルモール化に向けたファーストステップとして歩道拡張や利活用のチャレンジが続く御堂筋の取り組みを中心に、大阪市で議論されている様々な構想についてご紹介くださいました。

大阪市を南北に貫くメインストリートである御堂筋。このストリート自体が景観的に重要な公共施設であると位置付けられており、それにふさわしいクオリティが保たれるよう、道路管理者が「みちガイドライン」を定めて、グレードの高い空間再編整備や利活用が行われています。

特に御堂筋の両側に並ぶイチョウの木は市の指定文化財になっていることから、歩道拡張に合わせて地下にイチョウの根が伸びるスペースを作り、踏んでも崩れない特殊な土を入れ、道路は透水性舗装で整備されました。イチョウが生長すれば暑熱対策にもつながるため、景観形成のみならず、道路におけるGX推進にも繋がる取り組みです。

また、利活用の面では、イチョウ並木に沿ってほこみちを指定し、市と道路協力団体が協働して、官民連携でにぎわい創出にも取り組んでいます。
2023年の社会実験中は、人通りが増えて周辺店舗のクレジットカード決済額が増加するといったデータも得られており、ほこみちの効果が見え始めたと言います。

また、大阪市では2024年12月に世界ストリート会議が開催されました。
その会議の場で、「道だけで考えるのではなく、道を変えることでまちをリノベーションするのが本来の主旨である」と大阪市建設局長は語りました。まずは都市プロモーション戦略を立て、わくわくするメッセージを発信し、「御堂筋に投資したい」と思う環境をつくった上で、利活用を行う。このサイクルによって、より多くの共感と財源を確保し、高質な道路の維持に繋げていく狙いだと言います。

そのために、次々と新しいチャレンジ起こしていく御堂筋から、今後も目が離せません!

駅から水辺、そして道のトップランナーへ ―単純開発から、公共空間活用による関係性開発へ

<登壇者>
片桐 暁史さん 東日本旅客鉄道株式会社(出向中:台東区 都市づくり部/副参事)

続いては、JR東日本でまちづくりとエリアマネジメントに携わり、2023年から台東区へ出向して、まちづくり・モビリティ・DXを担当されている片桐さんです。公共空間利活用の視点や多様性について話題提供してくださいました。

公共空間を活かせば、都市の個性・魅力・豊かさを高められるのではないかという問題意識から、4つの視点を提示。
視点① 地域の個性を際立たせる公共空間活用
視点② 都市空間を連続させる 
視点③ 地域住民を主役にする公共空間活用 
視点④ ひととまちをつなぐ公共空間活用

まず、視点①「地域の個性を際立たせる公共空間活用」では、浜松町駅から徒歩圏内にできた複合施設「WATERS takeshiba」を紹介。開発当初は想定していなかった、このエリアの最大のユニークネスである水辺に着目し、水辺を活かしたプラザ(広場)・船着場・干潟を整備しているのが特徴的です。これを実現するために社会実験、関係者の合意形成、エリアマネジメント団体による河川占用許可などに取り組まれました。

つぎの、視点②「都市空間を連続させる」と、視点③「地域住民を主役にする公共空間活用では、山手線の新駅・高輪ゲートウェイ駅直結の「TAKANAWA GATEWAY CITY」(2025年3月まちびらき予定)を紹介。開発を進めていく上で課題となったのは、南北1kmにわたる用地は区画整理事業によって街区間が道路等で分断されていたり、周辺に住宅地が多いということでした。そこで、「景観や賑わいを途切れさせることなく連続させること」「住民が主役になれるまちをつくること」を目指し、連続した緑やフラグ・イルミネーションを整備したり、開業前から地域イベントとしてマルシェや盆踊りなどを道路を活用して行ってきました。

最後に、視点④「ひととまちをつなぐ公共空間活用」では、台東区での取り組みを紹介。台東区と言えば、上野・浅草といった観光地に人が一極集中する課題がありました。そこで、人中心のウォーカブルなまちづくりを推進し、過密分散とエリア全体の活性化の実現を目指して、様々な場所で人中心の空間をつくる社会実験が進められています。2023年には、仲町通りで区道初のほこみち指定を行ったことでも知られています。

民間事業者の立場から、長期的視点をもって公共空間を活用して都市の魅力を高めていきたいと締めくくられました。

線路は続くよ、ほこみちに~調布駅前のよりみち空間「てつみち」~ ―実験的活用から展開し、全国初の20年占用を実現!

<登壇者>
菅野 厚さん 株式会社京王SCクリエイション、トリエ京王調布/支配人

続いては、京王電鉄で沿線商業施設の管理運営やトリエ京王調布の開業に携わり、2024年から株式会社京王SCクリエイションに出向している菅野さんです。鉄道敷地(私有地)の利活用からはじまったほこみち「てつみち」についてご紹介くださいました。

2012年に京王線の一部が地下化し、2017年には調布駅の地上に商業施設「トリエ京王調布」が誕生。それ以外の鉄道敷地については、市によって緑道や駐輪場が段階的に整備されるということになっていたため、京王電鉄ではその一部を「てつみち」と称して暫定活用していくことに。

暫定利用時の「てつみち」は、鉄道の記憶を残して、多様な人たちに集まってもらう場所にしたいという想いから、鉄道当時のフェンスは残したまま、線路があった位置にレールを敷き、テーブル・イスや子どもの遊び道具にもできる階段状や樽型の什器を設置。イベントがある日もそうでない日常も、多くの人でにぎわう空間となっていました。

その後2023年に土地の所有者が市に移転し、道路として整備されましたが、暫定利用時のように来訪者の滞留や賑わいが共存する空間にしていきたいということで、ほこみちを導入し、占用者を公募することとなりました。歩行空間を確保するため、利活用できるのは以前より細長い空間にはなりますが、ここの賑わいが「トリエ京王調布」に賑わいにも直結するという判断から、京王電鉄として公募にエントリーし20年間の占用認定を受けられました。

公募による選定は全国2例目、20年占用は全国初の事例となります!

新たな「てつみち」では、座ってくつろげる芝生で養生された什器等を多く配置し、好評だった什器もバージョンアップして設置。また、市の計らいで残してもらったレールの上には、スライドして動かせるベッド型のベンチを置いていますが、イベント時には取り外しできるようにして柔軟に運用できる仕組みが見えます。さらに、大人の目線の高さより低い什器を置くことで、遊んでいる子どもに目が行き届くようにも配慮されていました。

今後も行政や地域と連携しながら、より心地よく、楽しめる空間を作っていきたいと締めくくられました。

「あさか」の「まさか」~国での思いと朝霞で感じていること~ ―朝霞の新しい日常づくりへの挑戦

<登壇者>
松岡 里奈さん 朝霞市都市建設部/部長

続いて、国交省の街路交通施設課でウォーカブルの普及啓発などに携わり、2024年から朝霞市に出向し、都市建設部 部長の松岡さんです。朝霞市のみち活やウォーカブルな取り組みについて、国交省ウォーカブル担当時代の想いと絡めてご紹介くださいました。

朝霞市は、池袋まで16分と都心へのアクセス性が高い一方、大きな自然が残っていて、自然と利便性がバランスよく調和したコンパクトなまちです。そんなまちの特徴を活かし、ウォーカブルな取り組みが進められています。

松岡さんは国交省時代、全国の自治体の声をたくさん聞いてきた中で、「まちへの愛着、ヒトへの想い」「自分事としてとらえ、小さなことからまずやってみること」「共通のビジョン」が重要であると考えるとともに、次なる課題は「日常」であると感じていたそうです。

そんな想いを持って朝霞市に出向し、驚いたのは、まずはまちなかにベンチがたくさん置かれているということでした。個性的なベンチから遊休地を利用して設置されたスツールなど、ちょっとした空間を活かそうという思いが感じられます。しかもまちなかベンチの半数近くが、民間の協力を得て設置しているということで、官民が一体となって歩くきっかけづくりを推進していることがわかります。

次の驚きは、公共空間活用が市民に浸透していて、イベントはもちろん、しっかり日常化されているということでした。朝霞市では2020年、市道の西側に、幅員30mを拡幅した全長680mの広大なシンボルロードが整備されており、市内唯一のほこみちに指定されています。ここでは様々なイベントが開催されるほか、毎日のようにキッチンカーが来る日常が生まれています。「ここに行けば何かある」ということが市民に定着しているからこそ、継続されているのだと松岡さんは言います。

これらの素敵な循環は、コロナ禍に立ち上がった「アサカストリートテラス」というコロナ特例を使った屋外での飲食店営業がきっかけで始まりました。そこから「あさかエリアデザイン会議」という官民連携のプラットフォームが組成され、「エリアビジョン」という共通の目標を掲げ、取り組みが進められています。

このような朝霞市の現状を現場で見て、国交省時代に考えていたことは間違っていなかったと改めて実感されたそうです。これからの課題としては、自立自走や継続性とともに、庁内連携に尽力していきたいと締めくくられました。

Meets on the Streetでいこう

<登壇者>
一般社団法人建設コンサルタンツ協会 長田拓也さん、柴田道生さん

続いて、一般社団法人建設コンサルタンツ協会で「道路空間活用ガイドブック」の編集に携わられた、長田さんと柴田さんです。先月(2024年12月)にできたばかりのガイドブックについて、ご紹介いただきました。

建設コンサルタンツ協会では2021年から「新しい生活様式の道路空間ワーキング」を立ち上げて、建設コンサルタント16社・17名が参加して検討してきました。翌2022年には「建設コンサルタントが考える道路空間のつかいかた~Meets on the Street」というパンフレットを公開するとともに、2023年には人中心の道づくりを実現するための課題と対応方法として取りまとめて、国交省道路局長に提言されています。これら一連の検討を踏まえ、この度「道路空間活用ガイドブック」を作成されました。

ガイドブックに込めた想いとしては、まずは2050年消滅可能性自治体が全体の4割とも言われる日本において、社会インフラ整備に係わるコンサルタントとして、まちの骨格となる道路をもっと活用してまちの活性化に寄与したいということ。また、道路の使われ方や道路に対するニーズが変化している中で、全国に総延長120万km(高速道路を除く)ある道路に賑わいが生れれば、まちも元気になるのではないか、そのために道路活用・ほこみちを更に推進していくエンジンになりたいということ。そして建設コンサルタントの社会インフラに関するノウハウを使って、課題解決に寄与していきたいということを語ってくださいました。

ガイドブックは、これから道路の使い方を工夫したいと考えている方にぜひ活用いただきたいとのこと。実際に利活用するまでに必要となる検討事項や地域の活性化につながるまでの流れや、ユニークな活用事例、実現するための手法とモビリティの活用、必要な手続きなどが分かりやすく記載されています。この日は会場でもガイドブックを配布いただきました。

建設コンサルタンツ協会では、ガイドブックの普及に向けて、説明会・講習会の開催や適宜バージョンアップも検討されているそうですので、ほこみち実践者にとっては頼もしい指南書になりそうです。

参照:道路空間活用ガイドブック

ウォーカブルなまちづくりの広がり ―WEDOインパクト―

<登壇者>
﨑谷 唯比古さん 国土交通省 都市局 街路交通施設課/街路交通施設安全対策官

最後は、国交省都市局で「滞在快適性等向上区域(ウォーカブル区域)」の取り組みに携わっている﨑谷さんです。この機会に改めて、ウォーカブルの取り組み背景や政策の内容を共有するとともに、ほこみちとの連携についてもご説明いただきました。

政策としての「ウォーカブル」は、単語の持つ意味(歩きやすい、歩いて行ける)を超えて、「居心地が良く歩きたくなる空間」と位置付けられています。

人口減少や高齢化が急激に進行していくと予測され、地域の活力や生活機能を確保して安心して暮らせるよう、国ではコンパクトなまちづくりを推進しています。そのためにはコンパクトなまちの中心に「ここを訪れたい」、「ここに住みたい」という人を寄せ付けるマグネットのような魅力的な空間をつくることが必要になります。

ウォーカブルな空間とは、Walkable(歩きたくなる)、Eyelevel(まちに開かれた1階)、Diversity(多様な人の多様な用途、使い方)、Open(開かれた空間が心地よい)空間であると定義し、頭文字を取って「WE DO」をスローガンとして政策を推進されています。

運用にあたっては、街路を性格付けして、車が通るための道路なのか賑わいを生み出したい道路なのかを選定した上で、どこでウォーカブルな空間を作っていくかも重要であると、崎谷さんは言います。その上で道路空間の道路部分・歩道部分を再配分して、インパクトを生み出していくことになります。その際には、歩行者・自転車等と公共交通や車との関係も考えていく必要です。
さらに、ほこみちも強力なツールとしてしっかり活用していきたいと、ほこみちとウォーカブルの連携にも期待を寄せられました。

最後に、地域経済活性化、環境、インクルーシブ、交通安全、健康、文化とウォーカブルは包括的な概念であると言えます。全員参加でストリートからまちを変えていきたいと、締めくくられました。

いかがでしたか?ほこみちの最新トレンドから、利活用のスキームや地域に生み出す効果などそれぞれの特徴を感じていただけたのではないでしょうか。もう一度プレゼンを聞きたい方は、YouTubeよりご覧いただくことができます。ぜひ、皆さんのまちでのほこみち検討・実践にお役立てください!